「刻刻」堀尾省太

〜時を止めることができたら何をしますか?〜

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「刻刻」(1)<全8巻>
堀尾省太/講談社(モーニングKC)

毎年恒例の夏のスペシャル企画、鬼談・怪談特集ですが、怖い漫画は苦手な私がおすすめするのは、いつものようにライトでそれほど怖くないちょっと変わったお話です。

作者にとっては初連載作品となるというこの『刻刻』ですが、非常に完成度が高くしっかりラストまで考えられている作品です。
全8巻なのですが、あっという間に一気読みしてしまったほどで、まるで映画を一本見終わったかのような読後感がありました。

この特集で取り上げておいて何ですが、とても面白い漫画なのに全巻読むと最終的には「怖くない」漫画という印象になります。
異形の者は出てくるし、超能力的なこともあります。
どうなってしまうのかハラハラドキドキの展開にはなるのですが、最終的には……いえいえ、そこは黙っておきますがとっても「考えさせられる」漫画だなと思っています。

超能力を持っていたら、と誰もが一度は考えたことが……ありますよね?
その中でもメジャーな能力のひとつが「時を止める」というものではないでしょうか。
『ドラえもん』のひみつ道具でいうなら「タンマウオッチ」「時門」など、『ジョジョの奇妙な冒険』でいうなら「ザ・ワールド」の能力ですね。

時を止めるには、自分自身にその能力があるタイプ(固有の能力)と、時を止める装置が存在するタイプ(誰でも使える能力)があります。
この『刻刻』では、後者の誰でも使える装置が存在するパターンです。

例えば、その装置を持っていて何か世のために使いたいと思っているAさんがいます。
逆に装置は持っているけれども、使わずにおいていくのが良いと思っているBさんがいます。
この時、Bさんの装置の方がAさんのものより大きな力を持つ場合、AさんはBさんの装置を手に入れたいと思うのは当然の流れかなと思います。

本作はちょうどそんなところから始まります。
佑河(ゆかわ)樹里ちゃん、失恋後で就職活動中の28歳が主人公です。
父(無職)、兄(ニート)、祖父(隠居)と母親(佑河家の大黒柱)、妹(シングルマザー)、甥(幼稚園)と共に、のんびり暮らしています。

珍しく兄が甥の幼稚園のお迎えに行った日、その甥と兄が誘拐されてしまいます。
犯人からの要求はお金でしたが、佑河家としては払えない金額ではないもののタイムリミットがかなり短いという妙なものでした。
指定の場所に行くには間に合わないと絶望的になる樹里ちゃんたちでしたが、焦る樹里ちゃんと父に、祖父がやってみせたのが「止界術」という時を止める技でした。

祖父の部屋のテレビの上にあった「努力」と刻まれたちょっとダサい石の置物、それに触って術をかけると触っている人たち以外の全てが止まるのです。

全ての物が止まっている世界で動ける3人は、兄と甥を助けに向かいます。
実は父も樹里ちゃんも幼い頃に祖父にこの術を使って、この止まった世界「止界」に入ったことがあったようです。
でもそれは夢を見たということにして、祖父はふたりにはその術を伝えないことにしていました。

今回も祖父は止むを得ず術を使いますが、甥と兄(祖父からはひ孫と孫)を連れ帰ったら、すぐに術を解いて一件落着と考えていました。
しかし、お金を持ってこいと言われていた場所に行くと、3人以外の他の全ての人も物も止まっているはずなのに、動いている人たちが何人も現れます。

現れた人たちは一体誰なのか? 

樹里ちゃんたちは、兄と甥を助けて元の世界に無事に戻れるのか?

本当にさわりの部分しか書けないのがもどかしいのですが、この漫画は、突然止界に入ることになった樹里ちゃんと同じ目線で読んでいった方が断然面白いので、あらすじっぽいところはこのくらいにしておきます。

 

本当に時を止められるなら何をしたいか、または何もしたくないか、私なら遅刻しそうとか細かい用事で使いたくなるけれど、その度に術を使うのも面倒だなと結局は何もしないで終わりそうな予感がします。

あと、うっかり喋って悪用しそうな人に騙されて使われるかもしれませんものね。

つまり自分では有効活用できなそうなので、あの石は持っていたくない
というのが私の結論です。

あなたは時間を止める石、持っていたいですか?

奇妙な止まった世界で考えてみませんか?

そんな不思議な体験ができる漫画、おすすめです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。