「思春期飛行」江本晴

〜思春期のほんの束の間,空を飛べるとしたら貴方は何をしますか?〜

思春期飛行icon

「思春期飛行」<全1巻>
江本晴/講談社

まずは,タイトルのセンスに

そして,発想の素晴らしさに脱帽です。

『思春期飛行』

10代前半の子どもから大人へと成長する,ふわふわと危うい時期のメンタル面を象徴するタイトルかと思いきや……

実は,思春期に現れる身体的変化を表しています。

本作の世界では,第二次性徴期を迎えると一時的に「飛べる」ようになります。

タイミングはまちまちで,中には小4で「飛べる」子もいれば,中学生生活を「飛べず」に終わる子もいます。

そして,「飛べる」期間はわずか1〜2ヶ月だけなのです。

同級生がどんどん「飛べる」ようになるのに,自分はまだだと焦る子

気になる女の子に,とっくに「飛べた」と見栄を張る子

駅の階段を降りていると突然「飛べる」ようになって戸惑う子

初潮がいつ来るか焦ったり戸惑ったり,初体験のことで見栄を張ったり張らなかったり……

一見,側からはわからない変化に一人悶々としていたものです(大人になってみると,なんであんなことに一喜一憂していたのかと不思議になりますが)。

だれしもが,思春期のほんの一瞬だけ「飛べる」なんて,どんな人にも美しい青春のひと時が保証されるような気がしますが,本作はそれほど甘ったるくはありません。

「第二次性徴期」が「飛べる」なんて側から見える形で現れるのは,当人からしたら小っ恥ずかしいものですし,時代によったら必死で隠さなければならかったりします。

この辺りの微妙なさじ加減が本作の秀逸なところなのです。

「飛べる」ことで有頂天になったものの,自分の子供さ加減を思い知らされる少女

「飛んだ」ことがないくせに,「飛べる」ようになった病気がちの少女に飛行指南をする少年

走り高跳びのエースだったけど「飛べる」ようになったせいで大会出場停止(なるほど!)になって死にたくなった少女

飛行期=思春期を迎えた少年少女たちの6編のオムニバスが収録されています。

中でも,可愛らしいワンピースを着ることも,自由に飛ぶことも憚られた少女時代を過ごしたおばあちゃんの夢を叶えるために奔走する少女を描いた『おばあちゃん子とワンピース』は,ホロリとさせられます。

「飛べる」からこそ,悩んだり,喜んだり,気付いたり……異色の思春期ドラマ6編,お試しを!

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。