「僕はビートルズ」作・藤井哲夫/絵・かわぐちかいじ

〜ビートルズはお好きですか?〜

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「僕はビートルズ」(1)<全10巻>
作・藤井哲夫/絵・かわぐちかいじ/講談社(モーニングKC)

もし自分だけしかビートルズを知らない世界に行ってしまったら……?
そんなテーマの映画を最近見ました。音楽をやっている青年がビートルズのいない
パラレルワールドに行ってしまった、そんな映画です。その世界線だとジョンが死なずに
地元で静かに暮らしているってところが一番良かったなぁ。

その映画を観た後に「同じような話の漫画があったよね?」と思い出して全巻買い揃えて一気に読んだのが、今回のオススメ漫画『僕はビートルズ』です。
モーニングのMANGA OPENという新人漫画賞で大賞を獲った原作に、その審査員でもあったかわぐちかいじ氏が作画をつけた作品です。

こちらの作品ではビートルズはいないのではなく、「まだ」いないだけで、ビートルズがデビューする前の時代に主人公たちがタイムスリップします。
そしてこのタイムスリップしたのが、ビートルズのコピーバンドをやっていた4人だった、ということが歴史を大きく動かしてしまうことになるのです。

ビートルズのコピーバンド、しかも日本におけるビートルズバンドの聖地といわれる六本木リボルバーと専属契約を結び、本物よりもテクニックは上かも、という実力の「ファブ・フォー」のメンバー全員がビートルズ誕生前の日本に行ってしまいます。
これはやりたくなっても不思議では無いですよね、「ビートルズ」を。

初めはメンバーのレイやコンタはタイムスリップしているかどうか不明だったのですが、残りのメンバー、ショウとマコトのふたりは一緒に同じ場所にタイムスリップします。
とあるジャズバーでふたりで歌った「イエスタディ」を「誰の曲?」と聞かれマコトが言ってしまった「俺の曲です」の一言。
その嘘から1960年代の日本の音楽シーンではありえなかったはずのバンドが誕生してしまうことになりました。

ビートルズの曲を自分たちの曲として発表する。
後からマコトは「ビートルズの新曲を聴きたいから」と言っていました。
自分たちがビートルズが出すはずだった213曲をすべて世に出してしまったら、彼らがどんな新しい曲を作るのか聴いてみたい、と。

しかし世界の音楽シーンに今なお影響を与え続けているビートルズの曲を自分の曲と言ってしまいたい単純な願望も確実にありましたよね。
大好きだったあのビートルズに自分がなれるとしたら……そんな魅力的なことってなかなか無いですもんね。

のちに合流する他のメンバーのレイやコンタが最初にマコトを咎めたように、このマコトのついた嘘を否定することは簡単ですが、彼らが過去に来たことで、ビートルズがいなくなってしまったのだとしたら……レイの言葉を借りれば「彼らのすべてを伝える責任が俺たちにはある」のです。

私は知ってる曲もけっこうあるよ、くらいしかビートルズを聴いてきていませんが、彼らの音楽が世界の音楽を大きく変えるきっかけになったのは知っています。
それが無くなるのは、やっぱり良くないことなんだろうなぁと思うのです。
かといって、他の人がそれを伝えられるのかという疑問は残りますが……。

同じくらい、それ以上の腕前を持っていて同じ曲を演奏したとしても、同じだけの感動を、影響を聴く人に与えられるのか、それは「ファブ・フォー」のメンバーも常に悩み続けていました。

今のようにインターネットも音楽配信もない、それどころか海外渡航にとてもハードルが高かった時代で、国内の音楽業界も今ほど自由度がない中、それでもファブ・フォーは日本で、世界で、受け入れられるのか?
そして、いなくなったと思われていた本家が……?
いろいろ話したいことはあるのですが、テンポよく進むストーリーなので、10巻一気に読めますからぜひ読んでみてください。

単行本5巻の巻末解説でオススメされていたように、漫画内で登場したビートルズの曲をかけながら読むと楽しく読めますよ。
願わくば幻の一曲「ファビュラス・フォー」を聴いてみたいですね。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。