「1日2回」いくえみ綾

何気ない日常の狭間でふと想いを馳せる人。時は流れ、生き続けているからこそ愛おしい過去がある。

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「1日2回」(1)<既刊2巻>
いくえみ綾/集英社

園田れみ(39)は、高校の同級生忠(ただし)と結婚したが 4 年で死別し、母と中学 2 年の娘と 3 人暮らし。

れみの隣に住んでいた同い年で幼馴染の季(とき)(39)も同じ高校で、忠とは親友だった。

季は婿養子となったが、ある日男性不妊が原因で「子なきは去れ」とばかりに隣の家に出戻ってきた!ところから物語は始まります。

お隣同志の幼馴染が、それぞれ別の人と結婚したものの、いまやひとり者同志。

なにやら 2 人の恋愛模様が描かれるかと思いきや、そこは人の気持ちの微妙な揺れ具合をリアルに描かせれば天下一品のいくえみ綾先生。

物語はれみや季の周りにいる人々との関係、そして今の関係性に至る 2 人の過去と現在を行きつ戻りつしながら、1 人 1 人のキャラクターが丁寧に丁寧に描かれて生きます。

明るくノリのいい性格の母りら、れみに似てはっきりものを言う中学 2 年にしては大人びた娘るり、そして、れみに気持ちを寄せる会社の後輩。

季の両親、結婚して家を出ている季の兄と兄嫁、季の良き仕事仲間。

そして、今の彼らの関係性を語るのに欠かすことのできない存在である、今は亡き忠。

忠とれみの間にるりが生まれた頃、忠の入院中に皆で祝ったクリスマス、病気が再発したことを季に打ち明ける忠……現在と過去をコマ割りの枠を白・黒で塗り分け、物語は季の視点で描かれます。

一貫して、ふとした仕草、インテリア、食べるもの、身につけているもの、日常会話……

淡々と彼らの日常が描かれる中で、れみや母親のりらが愛する人(忠やれみの父親)を亡くした時の喪失感、親友の忠に対する季節の友情、そしてれみに対する季の思いがといった、ゆっくりと着実に浮かび上がってきます。

登場人物 1 人 1 人のキャラクターとその時の心情をさりげなくもがっつりと伝えてゆく、いくえみ先生の手腕は「天才!!」の一言に尽きます。

筆者がお気に入りのシーンをひとつ(少し長くなりますが、ご容赦を)。

両親に孫を抱かせてやれずに出戻ってきた季は、居心地の悪さを感じつつ過ごしていた。

そこへ兄夫婦に子供が生まれるのを機に実家で同居することになったことから引っ越すことを考えるようになった季。

季の複雑な心情を察した中学生のるりは、子どもらしい無邪気さで季の心にグサリとささるような言葉を放ってしまう。

その時にれみがるりに言って聞かせた言葉です。

大人の問題に興味本位で口出しするの禁止!

あなたに話さなきゃならないことはちゃんと話すからあなたをまるきり子供だとは思ってないし

そう まるきり子供ではないからこそ人の気持ちをちゃんと考えなさい 誰がどう思っているか
誰が何に傷ついているか

あなたのその子供らしい好奇心で

人の人生に茶々を入れるような真似は許しません!

いやぁ、我が事のように刺さりました(笑)

白状しますと、読み始め当初は、行きつ戻りつする時間軸に追いつけず、さして興味を惹かれなかった

(失礼!)のがしょうじきなところでした。

ところがどっこい、いつの間にやらいくえみマジック(?)の虜になり、季とれみや忠の過去、これからの季とれみの関係やるりの成長……とまだ見ぬ過去と未来にいつしかワクワクしながら連載を心待ちにする読者になってしまいました。

愛する人との出逢いや子供の誕生といった喜びを人生の糧とし、大切な人を失った悲しみを時の流れと周りからの愛情で癒しながら生きていくことの美しさと愛おしさが、徐々に腑に落ちていく物語。

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。