決して許容できないものを全て排除すれば組織は崩壊する……生きる場所はここだ。
映画「インスペクション」 |
予告編にあるBoot Campのシーンを見ると、戦争映画⁈と思いきや、これは1人の青年のアイデンティティと母親への思慕との葛藤の物語だ。
物語は、監督自身の半生を描いたもので、16歳から10年間ホームレス生活を過ごし、海兵隊に入隊。
海兵隊在籍中から映画製作を開始した。
筆者はTop Gunと海兵隊(Marine)の関係も全く理解してはないのだが、映画の中で教官が 「我々はNavyじゃなく、Marineだ」 と語ることから、海軍の精鋭部隊であることだけは理解できる。
STORY
ゲイであることで母に捨てられ、16歳から10年間ホームレス生活を送っていた青年・フレンチ(ジェレミー・ポープ)。
どこにも居場所を許されず、自らの存在意義を追い求める彼は、生きるためのたったひとつの選択肢と信じて海兵隊への入隊を志願する。
だが、訓練初日から教官の過酷なしごきに遭い、さらにゲイであることが周囲に知れ渡るや否や激しい差別にさらされてしまう……。
理不尽な日々に幾度も心が折れそうになりながらもその都度自らを奮い立たせ、毅然と暴力と憎悪に立ち向かうフレンチ。
僕が僕のままで在るために、自分の意志でここに居る――。
孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく。
公式HPよりhttps://happinet-phantom.com/inspection/
鬼教官も同性愛者を決して許容はしない。
だが、それが故の単純に理不尽なシゴキはしない。
彼らは,許容できずとも理解はしている。
「ゲイを排除したらMarineは崩壊する」
かつて資本家達が、労働者を搾取し過ぎれば資本主義社会が崩壊することを理解したかのようだ。
加えて、実践の場で好きだ・嫌いだ,ゲイだ・ストレートだなんて言ってられない。
戦闘能力と連帯が何よりも優先する。
でなければ、祖国も自分たちの命も守れないことを,過酷な訓練を通じて若者たちは理解し、友情が生まれる。
まさに、アメリカ社会の縮図ではないか。
フレンチの母親も黒人であり、アメリカ社会での差別と闘ってきた。
刑務官という職を手にして苦労して育てて来た息子を誰よりも愛している。
しかし、保守的なクリスチャンである彼女は、どうしても息子が同性愛者であることを許容できずに苦しんでいる。
無事訓練を終えた海兵隊の修了式当日。
海兵隊の制服に身を包むフレンチを母親は誇りに思う。
ここで彼女の心が解けるかと思いきや……!ここら辺が決して軟弱でない本作。
フレンチが16歳でホームレスとなって以来,もがき苦しみながら勝ち取ったものが彼を救う。
スタジオ24といえば,『ムーンライト』,現代版『愛と青春の旅立ち』,海兵隊の訓練シーンは『フルメタルジャケット』『ジャーヘッド』といった監督がリスペクトしてやまない名作映画が見え隠れする。
前回ご紹介した『ウーマン・トーキング』と真逆で、出演者は男性ばっかで唯一人の女性がフレンチのお母さん(笑)。
訓練生達の肉体が美しいのはもちろんですが、若者達のどストライクな青春ドラマに感動できる95分。
2023年8月4日(金)より全国公開。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |