「アンソロジー 死神」編:東雅夫

漫画,小説,戯曲,落語……時代も国もジャンルも超えて感じる「死神」の魅力と恐怖。

死神icon

「アンソロジー 死神」
編:東雅夫/KADOKAWA

奇談・怪談特集ということで,前回に引き続き今回も「死神」,しかもアンソロジーをご紹介。

漫画,落語,落語の元ネタ?と思しきグリム童話から小説まで,洋の東西,時代,ジャンルを超えた11編の傑作が集結。

トップバッターは水木しげる漫画。「死神」は「ねずみ男」に並ぶお気に入りキャラ。
「死神のささやき」 水木しげる

水木ファンならば誰もがご存知であろう,高度経済成長を経て生じた社会問題などを題材に新生物「コケカキイキイ」の活躍を描いた風刺的要素の強い『コケカキイキイ』。

続く『コケカキイキイ外伝』では,時事問題が多く取り上げられ,本編は1970年に自決した三島由紀の霊魂を巡ってコケカキイキイと昔馴染みの死神が活躍する。

初出(週刊漫画サンデー)が1971年1月。

三島由紀夫の自決事件騒ぎの興奮さめやらぬ時期に書かれ,70年代に相前後して亡くなった大宅壮一,川島正次郎も(亡霊として)登場する。

当時,三島の死による衝撃がいかほどのものであったかを知ることができる貴重な歴史的資料でもある。

「死神」 三遊亭円朝/三遊亭金馬(二代目)


「死神」 柳家小三治


「死神の名づけ親 第一話・第二話」 グリム兄弟/金田鬼一訳


円朝の創作落語「死神」はあまりにも有名だが,元ネタ(諸説ある)が,なんとグリム童話とは!?


「死神」 織田作之助

なんと,未完。

残念だが素晴らしい。

これを読むだけでも本書を手に取る意味があると言っても過言ではない。

「死神と少女」 武者小路実篤


「死神になった男」 源氏鶏太



「背の高い女」 アラルコン/桑名一博・菅愛子訳


「色の褪めた女」 小山内薫
「色あせた女性」 鈴木鼓村


編者の東雅夫氏曰く,この三作はひと連なりで読むこと(編者あとがきより)。

確かに。

いずれも短編・小編で,ネタバレになるので内容紹介は避けておく。

ラストはこわ~い漫画で締めくくり。


「死神の涙」 つのだじろう

つのだじろうオカルト自選集 2 ドゥエンデ (中公文庫 コミック版)に収録の1編。

最後まで読むと……もはや,手遅れ。

週刊少年チャンピオンに掲載されていた,1日読むごとに100日ずつ寿命が縮まる「恐怖新聞」を思い出し,読むのが怖い。

けど,読んでしまう(読んでしまった)。

「死神」を通じて,漫画も小説も戯曲も落語も楽しめる欲張りな一冊。旅のお供に。

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。