映画「ジョー・ブラックをよろしく」監督:マーティン・ブレスト/脚本:ロン・オズボーン、ジェフ・レノ、ケビン・ウェイド、ボー・ゴールドマン

人間界の愛と信頼が心を持たないはずの死神をも動かし,やがて死神も孤独を疎うようになる……。

「ジョー・ブラックをよろしく」icon

原題:「Meet Joe Black」
キャスト:ブラッド・ピット、アンソニー・ホプキンス、クレア・フォーラニ、ジェイク・ウェバー、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ジェフリー・タンバー
制作年:1998年
(C) 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

鬼談・怪談特集ということで,「死神」が主人公のお話をご紹介。

1998年にアメリカで公開されたファンタスティック・ラブストーリー。

ジェームズ・ディーンの再来と騒がれ,世界的アイドルだった若きブラッド・ピットが神がかりなほどにチャーミング!!!

(実際,本作のブラピはジェームズ・ディーンによく似てる)

あまりにも有名な作品なので,観たことはなくても名前やあらすじくらいはご存知の方も多いのでは?

1929年にブロードウェイで初演されたイタリアの劇作家アルバート・カゼーラの戯曲『Death TAKE A HOLIDAY (邦題:明日なき抱擁)』。ブロードウェイでは2011年にも上演。

1934年には映画化もされ、『明日なき抱擁』(邦題)で公開。そのリメイク版が『ジョー・ブラックをよろしく』(原題:Meet Joe Black)。

日本でも,2023年に宝塚歌劇で月組公演 『DEATH TAKES A HOLIDAY』が予定されたものの,東京公演は中止になったのが記憶に新しいところ。

34年の『明日なき抱擁』が公開当時、映画界からの絶賛と評価が高かったせいか,第19回ゴールデンラズベリー賞で、最低リメイク続編賞にノミネートされるという経緯があるのだけど,いやいや,名作ですよ。

あらすじ:一代で財を成した大富豪のビル(アンソニー・ホプキンス)は死期がせまり,死神(ブラッド・ピット)が迎えにくる。

死者を冥界に運ぶ仕事に飽きてきた死神は,人間世界に興味を持ち、ビルの命の延長と引き換えに人間界の案内役を引き受けさせる。ビルの家族に友人と紹介された死神(とりあえず,ジョー・ブラックと名乗ることにする)は、ビルの次女であるスーザンに惹かれ、次第にスーザンもジョーに恋をしてしまう。

間近にせまったビルの65歳のバースデーパーティーは大統領を招待するほどの大掛かりなもの。

長女のアリソン(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は準備に奔走するが,仕事熱心なビルには理解してもらえずストレスを抱える。

スーザンの婚約者ドリュー(ジェイク・ウェバー)は切れ者だが,会社の乗っ取りを密かに企んでいる。

ビルの部下として働くアリソンの夫は,人のいいだけが取り柄でビルの足を引っ張る失態をしでかす。

あげくに,スーザンへの恋心を抱くようになったジョーは「彼女も連れていく」と言い出す始末。

てんやわんやのコメディ要素たっぷりな中に,家族愛,恋愛,死生観まで盛り込んだ原作。

そりゃあ,舞台も映画も重ねて創られるはず。

原作の戯曲を時代も場所も大きく変え,34年の映画の倍ほどの長尺となった本作は,とにかく脚本と演出が素晴らしい。

加えて,キャステイングが秀逸で,各登場人物の隅から隅まで,キャラクターを端的に表す役者をよくこれだけ見つけたなと。

そういう意味で,「映画は生もの」だとつくづく思う。

人間社会を物珍しげに見物するジョーの振る舞いは奇妙だが,そこはブラピのイノセントな芝居がツボにはまってこの上なく魅力的だ。

死神が肉体を借りることになる青年(ブラッド・ピットの二役)とスーザンは,映画の冒頭,カフェで偶然知り会うのだが,スーザンが瞬時に彼に惹かれるのにものすごい説得力がある

これは脚本(台詞)のうまさとブラピの演技のなせる技以外のなにものでもない。

2人姉妹にありがちな,大好きな父親が妹贔屓なのを自覚する姉。

だけど父を愛する気持ちは揺らぐことがなく,そんな長女の気持ちを理解し,愛する父親。

本作では,ブラピとアンソニー・ホプキンスにとかくフォーカスされがちなのだが,スーザン役のクレア・フォーラニの身体表現の見事なこと。

やっぱりイギリスの役者は基礎力が違うのかと感嘆することしきり。

上映時間3時間越えの大作となっているが,脚本の巧みさ・役者の演技・衣装・美術・音楽の絶妙なハーモニーはまったく長さを感じさせない。

ただ,テレビ放映となるとそうはいかないので2時間ほどに大幅にカットされ,監督名のクレジットはアラン・スミシー※となっている。

※何らかの問題で自らの監督作品として責任を負いたくない場合にクレジットされる偽名。

日本映画だと,原田眞人監督の「ガンヘッド」(1989年)の例がある。

アメリカ合衆国向けにビデオソフトとして販売する際に、内容がアメリカ人のテイストに合わないと大幅に再編集されており、これに憤慨した原田監督がクレジットから名前を削除し、アラン・スミシー名義となっている。

アンソニー・ホプキンス演じるビルの口から醸し出される名言の数々。

そして

プラピとアンソニー・ホプキンスのタキシードの美しさ。

この2点だけでも価値ある作品。

夏の夜に,よく生きることとは?・よく死ぬこととは?を考えてみるきっかけに……。

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推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。