「白咲いちごは断れない」優月心菜

世話になった叔父叔母のために風俗で働き健気に苦境を乗り越える令和版「昭和少女漫画風ヒロイン」

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「白咲いちごは断れない」(1)<既刊1巻>
優月心菜/集英社

紙媒体であれ,電子書籍であれ,『雑誌』でマンガを読むと,どうしても読み飛ばす作品がありません?

特にサブスクだと,次々に新刊雑誌が更新されるし,シュシュっとスクロールして飛ばし読みしちゃう傾向があるのは筆者だけでしょうか……。

そんな中でも,初見の作家なのに,毎号気になって読み続けたくなる作品があります。

今回ご紹介する『白咲いちごは断れない』はそのひとつです。

タイトルにもある白咲いちごは,訳あって世話になった叔父・叔母の治療費と老後資金のために働かねばなりません。

専属単体AV女優にデリバリーヘルス,撮影会モデルに地方出稼ぎ……と働きづめ。

とは言え,殺伐とした感じ,やつれた感じもない(そこは若さなのかもしれませんが)。

デリヘルのルールはきっちり守る真面目な性格で心優しい女子。

だけど,裏を返せば断れない性格が仇となり,災難に巻き込まれます。


ホストにはシャンパンを煽られ,いつの間にか居候された上に財布から現金を抜かれる。

SNSでは勝手に嫉妬した女子から変なDMが届き,デリヘルのドライバーからは関係を迫られ

他のAV女優にはマウント取られ……。

そんなこんなで,いちごの断れない性格につけ込む輩は次々に現れるものの,彼女はあくまで謙虚に対応し続けます。

決して逆マウントを取ったり,羨んだり妬んだりはしない。

かつて三島由紀夫は

「膝の上に上がるから頭を撫でてやったら,いい気になって肩まで登って来るやつがいる。それを放っておくと今度は頭まで登って,顔をなめ出す奴がいる。俺はそういうやつが大嫌いでね。」

と言っていました。

本作の主人公「白咲いちご」は,そんな奴にも謙虚に健気に対応します。

でも,そんな彼女も断ることがあります。

デリヘルのルール破りになることはしないし(どんなルールがあるのかは本文を読んでくださいね),関係を迫る相手に妻子があれば『不倫はダメです!』と焦りながらもキッパリ断る。

そう。

彼女には下品なところが無いのです。

そんな,そこはかとなく伝わるいちごちゃんの育ちの良さに惹かれて毎号読みたくなるのかもしれません。

ほんわかした絵柄とも相まって,読むたびに「がんばって!いちごちゃん」と応援したくなります。

AV業界,デリヘル業界の裏話に,ホスト事情……。
極端な誇張がなく,あくまで淡々と描かれ,妙~にリアリティがあります。

2020年5月に本作で#めちゃ漫画大賞奨励賞を受賞後,同年9月より『グランドジャンプめちゃ』で連載開始の新人(?)かと思いきや,なんと小学生時代から同人作家として活躍してきたベテラン(?)。

一話4コマ完結の構成力は見事なもの。

深く冷静な登場人物のキャラクター表現には読者もいつのまにか物語に引き込まれます。

“膝を飛び越え顔をなめてくる”奴らに謙虚に健気に対応する,昭和の少女漫画のヒロインを彷彿とさせるいちごちゃんの活躍ぶり。

めちゃコミなど各種Web媒体でも何話か無料で配信中の本作,ちょっと18禁なシーンもありますが,不思議とエロさ皆無。

お試しを!

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。