「重版出来!」松田奈緒子

〜祝100回ということで漫画にちなんだ漫画です!〜

「重版出来!」(1) <既刊14巻>
松田奈緒子/小学館(ビックコミックスピリッツ)

漫画や漫画家を描いているジャンルの漫画が好きです。

まず知らない業界や職業のことを読めるのが楽しいですし、それが好きな漫画の話ならなおさら読んでいて面白いです。

今回の作品、主人公は漫画雑誌の新人編集者である黒沢心ちゃん。

オリンピックを目指していたほどの柔道選手だった心ちゃんですが、怪我のため引退して出版社興都館に就職し、漫画誌「バイブス」に配属となります。

漫画を扱った漫画の場合、漫画家さんが主人公の漫画もたくさんありますし、編集者が中心のものもあると思います。

最初はこの心ちゃんが主人公なのかなと思って読んでいましたが、心ちゃんは主軸ではありますが、ストーリーテラー的な役割でもあり、その回ごとに取り上げられるメインキャラクターがいるように思えます。

ドラマでいうところの、各回ゲストのような感じでしょうか。

余談になるのですが、こちらの漫画もドラマ化されましたね。

オダギリジョーさん演じる先輩編集者が良すぎて困りました、という個人的好みはさておき、他のキャスティングもすばらしく、良いドラマになっていたので、機会があればそちらもぜひ!

さて、それはさておき、毎回の主人公は漫画や出版社にまつわるいろいろな方です。

そのいろいろが本当に多岐にわたっていろいろで、毎回わくわくするんです。

心ちゃん、先輩編集者、大御所の漫画家さん、そのアシスタントさん、新人漫画家さん……このあたりまでは予想できたのですが、書店さん、取次さん、校閲さん、印刷所のオペレーターの方、製版の方、漫画雑誌の編集者がメインのお話にあっては、かなり裏方と言える方まで取り上げるんですか?とびっくり。

しかも毎回みなさん魅力的に描かれているので、面白い!

みなさん矜持を持って仕事をされているし、作者の松田さんが毎回しっかり取材しているのだと思いますがその職業ならではのあるあるネタも描かれていたりするし楽しいです。

私は校閲の百瀬さんのお話が好きです(単行本6巻、35話に初登場)。

私と似たような幼少期を送ってきた気がする百瀬さんは、私が歩んだかもしれない道を歩んでいる人で、親近感がわきました。

そして、心ちゃんとのお仕事を通して上司に期待してもらえた喜びや、作品との向き合い方など多くを学んでいくこともあり、

読んでよかったー!と嬉しくなる回なのです。

とはいえ、なんといっても注目は主軸の心ちゃん、それと心ちゃんが見出した新人漫画家の中田伯くんです。

なかなか複雑な家庭環境で育ち、拠りどころが漫画しかない、天才的な漫画の才能を持つ中田くんと、天真爛漫な心ちゃんが、ふたりで連載をつかみ取り成長していくのが見ていて嬉しいのです。

そしてふたりの姿を見て涙します。幸せになってほしい、中田くん!

もはや親のような気持ちでこのふたりは見守ってしまいます。

心ちゃんのキャラもあって基本的には楽しく読み進められますが、時にシリアスになったり、時に泣かされたり、感情がいろいろ揺すぶられてしまう作品でもあります。

表紙のポップさや漫画の読みやすさにライトな印象がありますが、実はかなり硬派な漫画です、オススメです!

(連載中。2020年2月15日現在の既刊14巻)

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。