人の善意に触れられるかどうかの8割は、結局それに気付くかどうか……世界は捨てたもんじゃないな
「つかれたときに読む海外旅日記(ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)」<全1巻> |
いやいや,秀逸なタイトルです。
『○○な(の)旅日記』の○○が,「つかれたときに読む」なんて!
五箇野人(ごかやじん)氏が定期的にTwitter(@gokayajin)にアップした漫画を編集し,未公開作品を加えたものを一冊の単行本としたのが本書で,アジア,ヨーロッパ,中南米,アフリカの各地で出会った人々との愛しき思い出が,一話1ページ(8コマ)完結(例外もありますが)の作品集です。
本書は大きく2編に分かれていて,前半は【旅日記】ー甚平&忍ハチマキ姿で海外を旅した実録漫画ー。
「海外のピュアすぎる女子のオブラート事情」
「海外の怖めお姉さんから見た東京と大阪と貴族」
「海外のベランダで日本でも見る光景と見ない光景」
……なんともキャッチーなタイトルに並々ならぬ才能を感じつつ,爆笑。 冒頭1作めで大爆笑……そしてほろりと,いきなり心をワシ掴みされました。
英語も通じないヨーロッパの田舎町でバスに乗車。
小銭たんまり準備して乗車したものの,ICカード専用車両(想像以上に進んでいるキャッスレス化!)。
しかもICカードはバスで10分はかかる駅で買えと言われる(なんのためにバスに乗ろうとしてんだか?)。
入り口でモタモタしていると,刺青バリバリ強面のお兄さん登場。
ビビりまくった著者が諦めて降りようとしたら何と,彼が自分のICカードで2人分払ってくれた!
「I LOVE JAPAN」とポケモン絵柄のパスケースを見せてくれる。
しかも,現金を渡そうとしたら「その金でこの国を楽しんで」と……くぅ〜〜〜〜かっこ良すぎる!泣ける!
ネタバレごめんなさい。でもご安心を。
読めば100倍面白いですから。
こんな感じで,意外や意外の出逢いの数々が軽妙なテンポと絶妙なオチを伴って,なんともキュートな絵柄で描かれます。
そして,後半は【シビれめし】ー腹は壊し(シビれ)ても,満たされ(心がシビれ)るめしもあるー。
毎回,「旅を続ける上で,もっとも危機管理しているのが…どローカルな怪しいめしは全然食べるけど,自分なりに線引きして,腹壊しそうなものは断固断るのが鉄則!」で始まる食にまつわる素敵な出逢いの数々が描かれて,これまた爆笑と涙です。
マスク警察,ヘイトクライム,ワクチン接種による分断……人に対する不寛容さばかりが目につく昨今。自粛生活,外食控えろ,外で酒飲むな,支援金は追いつかず……知らず知らずのうちに,子どもも大人も,だれもが大なり小なり疲弊している日々。
海外旅行気分を味わえるだけでなく,人の温かさを改めて感じて,ほっこりできる珠玉の一冊です。
あとがきには,「海外に行く時,危機管理や警戒は大前提で必須です。
でも,危険,詐欺,強盗……マイナスな情報はイヤでも目にするので,自分はプラスな情報を発信しようと思いました」と,五箇野人先生が旅日記を描き始めたキッカケが書かれてあります。
加えて,「この漫画は創作ではないので,楽しんでいただけたなら,それは自分によくしてくれた現地の人が,みなさんの心を打ったということ」とあります。
確かに旅すれば,言葉が通じようが通じまいが,いい出逢いの一つや二つはあるはずです。
でも,なぜ,五箇野人氏はこんなにも多くのいい出逢い恵まれるのでしょうか?
多分,五箇野人氏が気付いたからなのだと思います。
イカついお兄さんに声をかけられて逃げ出す前に,食べ物を差し出されて断る前に,それこそほんの僅かなタイミングで,目の前にいる人を信じ,受け止めてみた瞬間に人の温かさに気付くことができたからなのではないでしょうか。
もちろん,氏がおっしゃるように,危機管理や警戒は大前提ですし必要です。
それでも,何もかも真っ向から拒絶してしまわなければ,触れることのできる素晴らしい出来事がある。
それが人生なのかも,と感じさせられた作品でした。
「あ〜〜っ,読んでよかったぁ〜」
ちょっぴり疲れた心が癒される一冊です。
お試しを!
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |