ぶつかるって,こんなに気持ちいいんだ!車いすラグビーが教えてくれる人生の切り開きかた
「マーダーボール」(1)<全4巻> |
『アタックNo.1』(1968〜),『サインはV』(1968〜),『金メダルへのターン!』(1969〜),『ビバ!バレーボール』(1968〜),『エースをねらえ!』(1973〜)……(古いですね。すみませんW)。
かつて,どの少女漫画雑誌でもスポ根漫画はデフォルトでした。
対して,今に至るも,少年誌・青年誌ではスポ根漫画は必須アイティムですが,本作は主人公がJKしかもウェルチェア・ラグビー(2019年より日本での競技名は「車いすラグビー」)がテーマのレアな作品です。
車いすラグビーは,バスケットボール・ラグビー・アイスホッケーなどの要素を採り入れ四肢に障害のある人向けに考案された車いすで競技するチームスポーツで,パラリンピックでは2000年のシドニー大会から公式競技になりました。
車いす同士がぶつかり合う激しいボディコンタクト(車いす競技では唯一認められている)があることから,本作のタイトルでもある「マーダーボール(殺人球技)」とも呼ばれています。
※2005年にアメリカ制作されたドキュメンタリー映画のタイトルも『マーダーボール』(Murderball)(ヘンリー=アレックス・ルビン監督)です。
“ラグビー”とついてはいるものの,通常のラグビーとはルールが異なります。
・1チーム4名男女混合で編成し,車いすバスケットボール同様,持ち点制を採用。
障害のレベルに応じて0.5点(重い)〜3.5点(軽い)の合計8.0点(女性が参加の場合は0.5点加算で8.5点)を超えないようにチームを構成しなければならない。
・試合は1ピリオド8分,4ピリオドで行う。
・競技用車いすは,ポジション(ハイポインター・ローポインター)に応じた役割に応じた頑丈かつ形状に工夫がなされた専用の車いすで,ラグ車と呼ばれる。
・競技場はバスケットボールコートを使用。
・バレーボールのようなボールをパス(ラグビーと違って,前方へのパスOK)やドリブル,膝の上にのせるなどして運び,相手側のゴールラインに達すると得点となる。
・ボール保持者は10秒以内に1回ドリブルかパスを行わなければない。
10秒をすぎると相手チームのボールになる。
と,ルールの説明が長くなりましたが,本作の紹介に移りましょう。
体操選手のホープで数々の受賞歴を持つJK・海野アサリは,弟の憧れでもあった。
ところが,家族で試合会場に向かう途中で交通事故に遭い,父親は死亡,弟は寝たきりの重度障害者,アサリも車椅子生活となった。
本来超ポジティブで明るい性格のアサリ。リハビリも持ち前のユーモアさで乗り切り,車椅子でも誰より早く走るためのトレーニングを欠かさない。
同級生たちとも今まで通り,冗談を言い合い楽しく過ごしている……はずだったが,やはり“障害者”のアサリとの間に壁を感じる。
母親は留守がちで,事故のショックから怪しい新興宗教にはまり,アサリは1人学校と家事,弟の介護に明け暮れ,誰ともぶつかり合うことのない日々を過ごす。
そんなある日,アサリは「車いすグビー」に誘われます。
ルールも全く知らないまま,しかも通常の車いすのまま練習に参加し,疾走するアサリだが,タックルを受け,ものの見事に吹き飛ばされる。
「なんで誰も,教えてくれなかったの? ぶつかるって,こんなに気持ちいいんだ」
この日からアサリと車いすラグビーの日々が始まります。
やるからには強くなりたいと,ひたむきに練習し,仲間と衝突したり,助け合ったりする中で,アサリは本当の意味で「人とぶつかること」の勇気と大切さ,喜びを知っていきます。
交通事故にあったのは自分のせいだとの引け目から,弟にも母親にもぶつかってこなかったこと,障害を理由に同級生たちにぶつかってこなかったことに気付きます。
本作の見どころといえば,タックルの激しさや迫力が見事に描かれている部分はもちろんなのですが,車いす=マシンとそれを分身のように乗りこなす選手のカッコよさ,そして何よりも4人のフォーメーションや戦略の面白さにハマります!
さらに,車いすラグビーのチームには年齢,職業,家庭環境,そして障害の程度の様々な人がいることに,恥ずかしながら気付かされました。
妻との間に子どもがいないメンバーの一人は,アサリを我が娘のように面倒見ます。
仕事や家庭環境によって練習に避ける時間も違いますし,汗のかけない人,ペットボトルを持てないほど握力がない中で車椅子を駆使する人……
同じ障害者であっても,他の人の障害に対する理解が不可欠ですし,ここでも「ぶつかりながら」人間関係を築いていきます。
登場人物たち1人1人の持つ障害とそれによる人生の苦悩や喜びも丁寧に描かれる肥谷圭介先生の手腕は流石です。
車いすラグビーの虜になること請け合いの本作「マーダーボール」。
ぜひお試しを!
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |