「みをつくし料理帖」岡田理知

〜漫画版だけじゃなく楽しめるシリーズです〜

みをつくし料理帖icon

「みをつくし料理帖」(1)
岡田理知/集英社(オフィスユーコミックス)

今回の「みをつくし料理帖」は、高田郁さんによる同名の時代小説シリーズのコミカライズです。
2度ほどドラマにもなり、次は映画にもなるそうですよ。

原作の小説がとても好きなので、ドラマ化にも注目していた作品で、高田先生の描く人物像がみんな魅力的でストーリーも面白いので、細かなキャスティングの好みはありますが、楽しんで見られました。

もちろんこのマンガ版も見逃してはいません。
原作小説は全10巻プラス後日談の短編集1巻の11巻あります。
マンガ版は小説の1巻を単行本で3冊、2巻を4冊で描いていて、現在7巻。
私が原作小説で一番好きな巻は7巻なので、まだまだ遠い道のりですが、のんびり楽しみに待っているところです。

今回の主人公は、江戸に出てきた大阪出身の料理人、澪ちゃんです。
丸顔、鈴のような瞳、ちょっと上むきの小さな鼻、下がり気味の眉……
お世辞にも美人と言われることはないお顔の澪ちゃんですが、愛嬌のある可愛らしい顔だと想像しています。
マンガ版の澪ちゃんは想像よりもずいぶんと可愛らしかったのですが、トレードマークの下がり眉は健在、親しみやすいです。

水害で両親を亡くし、縁あって大阪で名の知れた料理屋「天満一兆庵」でその天性の味覚を見込まれ料理人として修行していた澪ちゃんですが、火事でお店が無くなってしまい、一兆庵の主人夫婦と江戸店を頼って江戸にきます。

しかし江戸店は既に無く、主人嘉兵衛の息子で江戸店店主の佐兵衛は行方不明。
その心労で主人の嘉兵衛は亡くなり、その妻の芳を支えて働く澪ちゃんは、神田御台所町の蕎麦屋「つる屋」で働くことになります。
ほどなく「つる屋」は澪ちゃんが取り仕切る料理屋となり元飯田町へ移転しますが、常に料理と向き合う姿勢は一貫していて、澪ちゃんは料理を通じて多くの人と出会い別れを経験します。

澪ちゃんの作る料理がどれも美味しそうなのはもちろんなのですが、大阪から江戸に出てきた彼女が出会う東西の味の文化の違いに
たびたびカルチャーショックを受けるのが新鮮で面白いです。
そんなお出汁やお味噌などの味も全然違う中で、江戸の人にも美味しいと言ってもらえる料理を作ろうと奮闘する姿がいじらしいのです。

しかし、このお話はただ美味しそうな料理が出てきて涎を垂らす(お行儀悪くてすみません!)だけのマンガではないのです。
料理番付という今でいうところのミシュランガイドのようなものの上位にある料理屋「登龍楼」に目をつけられたり、大阪で生き別れた幼馴染との再会があるのかとか、吉原と関わりができ、時折お店に現れる浪人風のご奉行様とのまさかの恋バナとか……。
とにかく澪ちゃんには次々と色々な事件が降りかかります。

かつて、大阪で有名な易者に「雲外蒼天」の相だと言われた澪ちゃん。
苦労の多い人生だけれども、それに耐え精進すれば必ず青空が拝める、というなかなか世知辛い運勢だったのですが、それを胸にいつか青空を、いつか共に易を受けものすごい強運とされる「旭日昇天」と言われた幼馴染の野江(のえ)ちゃんと再会できたらと、懸命に生きている澪ちゃんにグッときます。

マンガを読んで、澪ちゃんの行く末が気になった方は、ぜひ原作小説もあわせて読んでみてください。
結末がどうなるか分かってしまっても、マンガでどう描くのか、という楽しみもありますから、楽しみに続刊を待っています。
江戸の食文化にも興味がでてくる壮大なドラマのマンガ、おすすめです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。