「さよなら絵梨」藤本タツキ

ボーイミーツガール×バンパイヤ=限りなく映画的かつマンガでしか表現できない繊細さと衝撃!

さよなら絵梨icon

「さよなら絵梨」<全1巻>
藤本タツキ/集英社

藤本タツキ氏といえば,連載継続中の『チェーンソーマン』があまりにも有名ですが,筆者のイチ押しは本作です。

読後の感想は「すげ~~~天才がいる……」。この一言に尽きます。

『チェーンソーマン』連載後に発表された本作も話題となり,いわゆる考察本まで出ています!?

中学生になり,スマホを買い与えられて喜ぶ優太。

しかしそれは,余命わずかの母親が亡くなるまでの様子を撮影するという過酷なミッションをともなっていた。

親子3人で過ごす残された日々を撮影していた優太だが,いよいよ母親の臨終の時,いたたまれなくなってスマホを放り出し、病院を飛び出してしまう。

走り去る優太の背後で病院は爆発……

と思いきや,そこは文化祭の上映会会場。

『デッドエクスプローション・マザー』と題した優太の作品は,生徒からも教師からも,“クソ映画”と酷評される。

ショックのあまり,遺書がわりの最期の映像を撮り終え,病院の屋上から飛び降りようとする優太の前に,優太と同じ中学の制服を着ている謎の美少女・絵梨が現れる。

唯ひとり優太の映画を絶賛する絵梨は,「もう一回映画を作って,次の文化祭では全員ブチ泣かせてやらない?」と映画製作のための特訓(ハリウッドメソッドらしい)を始める。

そんな優太が新たに考えた物語は,千年も行きてきたのに,もうすぐ死んでしまう吸血鬼少女と彼女の最期を撮影する少年とのラブストーリー。

絵梨を吸血鬼少女に撮影が始まるが,実は絵梨も余命わずかだった。

病室の彼女を最後まで撮り終えた優太の作品は文化祭で全員をブチ泣かせることに成功する。

その後,大学を卒業,就職,妻と娘をもうけた間も優太は,ずっと絵梨との映像を編集し続けていたが,ある日事故で家族全てを失ってしまう。

絶望に苛まれ,絵里との思い出の場所で,今度こそ死のうとする優太の前に現れたのは……!

現実と虚構,フイルムと被写体が交錯。

全編のほとんどが1ページ横長4コマで構成され,時々2コマ,たまに1コマ,稀に見開き2ページなのは,コマ割りならぬ,カット割り。

手持ちカメラのブレを思わせるような二重線で描かれる絵柄の挿入。

4コマ構成のページは,まるで映画フィルムのよう……。

呆れるほど映画に対する造詣の深い絵梨は,藤本タツキ氏の分身なのでしょう(作品の主要人物はどこか作者を投影されているものですが)。

映画に対するオマージュとリスペクト,そして映画ではできないマンガでしかできない表現手法は,ある種実験的です。

絵梨×吸血鬼少女……?!

映画好きの方ならば速攻思い出されたでしょう。

孤独な少年がバンパイアと初めての恋に落ちる限りなく切ない物語,『ぼくのエリ 200歳の少女』(スウェーデン版は秀逸です!)を。

『ファイト・クラブ』(2人で見ている作品。これもラストで爆発します),『君の名前で僕を呼んで』(レンタル屋に並んでいました),『パーマネント野ばら』,『ブラウンバニー』,『シックスセンス』,……筆者の好物の映画がぞろぞろ登場するのでゾクゾクしました。

ちなみに「爆発オチなんてサイテー!」は,『Fate/stay/night』(ゲーム)に出てくる台詞ですね。

読者を信じた構成は,それなりに物議を醸し,賛否両論でもある本作。これぞ藤本タツキワールド!

コミック208ページの読み切りです。

未読の方は2023年のマンガ初めに是非!

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。