いつの間にか日本も欧米並みの階級社会。アンダーグランドで生きる若者達のしゃれにならない青春―
「地元最高!」(1)<既刊4巻> |
21年からTwitterで『地元最高!』というアカウントで連載開始(現在も連載中)。
23年12月現在フォロワー数25.2万人。
ついに書籍化された話題の異色漫画。
主人公は小学校中退(⁉︎)で漢字も読めないテーンエイジャーの沙音琉(シャネル)ちゃん。
家族は,妹の可子(ココ)とママ。
舞台となる『地元』は,地方都市からも離れた田畑もちらほら見える田舎。車がないと生活ができず,服を買うのは近所のイオンしかない。
貧困,暴力,虐待,薬物,賭博,差別,無学,犯罪……不幸と罪悪のごった煮のような環境。
友達や先輩達はタトゥーだらけだったり,すぐにキレたり,酒浸りだったり,ヤク漬けだったり,裏切りや半殺しの目にあうのは日常茶飯事だ。
先輩の紅麗亜(クレア)さんは,美人でスタイル抜群。全身タトゥーで,『狩人の夜』(1990年チャールズ・ロートン)のロバート・ミッチャムよろしく,指にも文字が彫られている。
悪魔のように頭が切れ,容赦なく暴力をふるい拷問のコツまで熟知していて,とんでもないカリスマ性で紗音琉(シャネル)ちゃん達を仕切りながらシノギを稼ぐ。
だけど彼女達は連帯感を共有する。親も含めてオトナに助けてもらえない彼女達にとって『地元』の友達と先輩が命綱だ。
そんな地元から出たこともなく,出られない少女達が『地元最高!』と叫びつつサバイブしていく日常が淡々(?)と描かれていく。
『ギャングース』(肥谷圭介・鈴木大介),『リバーヘッド』(磯部涼・青井ぬゐ),『路上のX』(桐野夏生)など,少年少女が貧困・暴力の中でサバイブしていく作品はある。
しかし,本作では徹頭徹尾,登場人物が女子(刑事までもが女子)で,性暴力は描かれていない(今のところ)。
ヘタウマのような絵柄(作者はあえてこの絵柄を選んだという)で描かれた可愛い女の子とギャグが逆にシュールな恐怖と笑いを引き出す。
フランス映画の『トリとロキタ』(ダルデンヌ兄弟・23年公開)を今年の3月にご紹介した。
アフリカからベルギーに移民としてやってきた少年トリと少女ロキタを取り巻く残酷なまでの現実を丁寧かつリアルに描いた秀作だ。
高額な偽造ビザを手に入れたい少女ロキタが,稼ぎのいい仕事があるからと,目隠しして連れて行かれた郊外の倉庫で監禁状態になり,黙々と遺法薬物の栽培をさせられ,心が壊れそうになるシーンがある。
本作の主人公の沙音琉(シャネル)ちゃんも,アパートの一室に泊まり込みで,ちょっと変わった「アサガオ」を栽培させられる。
戦後は遠のき,「豊かで平和な日本」と称賛され,ダルデンヌ兄弟の作品に描かれるような階級社会,移民問題,底知れぬ貧富の差,争い難い暴力は遠い世界のような錯覚を覚えがちだ。
しかし令和の今,それらはすぐ隣で起きている現実だ。
『地元最高!』は明るく,笑いを添えつつも,どこまでもシュールに読むものに戦慄と驚愕を与える。
紗音琉(シャネル)ちゃん達の未来はどうなるのか?
コミックスで4巻まで刊行。
電子書籍は大幅プライスダウン。こちらからどうぞ。((Amazonリンク)
X(旧Twitter)では最新話更新中。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |