映画「マリウポリの20日間」監督/脚本/製作/撮影/編集：ミスティスラフ・チェルノフ

電力とネット。ジャーナリズムと映画の融合。これほどの衝撃と感動を伝えられるとは！

映画「マリウポリの20日間」 監督/脚本/製作/撮影/編集：ミスティスラフ・チェルノフ 音楽：ジョーダン・ダイクストラ 配給：シンカ 2024年4月26日（金）公開 / 上映時間：97分 / 製作：2023年（ウクライナ＝米） （C）2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

2022年2月。ロシアがウクライナ東部マリウポリへの侵攻を開始した。

AP通信の記者でウクライナ出身のミスティスラフ・チェルノフが2人の仲間とともに，そこで起こっている事実を伝えるため，包囲されたマリウポリで海外メディアが脱出する中で過ごした20日間を中心とした物語。

本作は第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞，Rotten Tomatoesでの支持率100%（英語版）、平均点は8.8/10となり，各地で話題となっている。

民間人は砲撃の対象とはしないとされていたはずなのに，ロシア軍の容赦のない攻撃による断水，食料供給，通信遮断……瞬く間にマリウポリは包囲されていく。

海外メデアが次々と脱出していく中，チェルノフらはロシア軍に包囲された市内に残り，死にゆく子供たちや遺体の山，唯一残された病院や消防署への爆撃など，侵攻するロシアによる残虐行為を命がけで記録して世界に発信し続けた。

戒厳令の敷かれた街中を，勇気ある現地警察官に助けられながらネットと電力を得られる場所を探し，数分単位に細切れにした動画データを送り続ける。

通信が途絶えてしばらくした後，彼らは編集室から衝撃の知らせを受ける。

彼らの配信した内容がフェイクニュースだ，瀕死の妊婦も俳優を使った芝居だとロシアが世界に発信しているという！？

徐々に戦況が悪化する中，彼らは後ろ髪をひかれる思いで，ウクライナ軍の援護によって遂に市内から脱出することとなる。

街の人々は，「この惨劇を世界に伝えてくれ」と，彼らの脱出を応援する。

目を覆いたくなるようなマリオポリの惨状を淡々と伝える映像には衝撃を受ける。

しかし，本作が多くの人々の胸に刺さるのは20日間の現地映像の凄さからだけでない。

ロシアによる情報操作，それに翻弄される各地のニュース，そして自身もウクライナ出身であり父親であるチェルノフがカメラの向こうにいる人々に寄せる心……。

そこからは，とてつもない怒り，悲しみ，憤り，そして人々への愛と純粋なジャーナリストとしての矜持が伝わってくる。

膨大な映像資料を，97分の映画にした洗練された編集の潔さ。

真実を伝えたい。でも，伝わらなければ意味がない。そして日々消費されていくニュース映像に堕してはならない。

その意味で，本作はジャーナリズムと映画が見事に融合し，成功している。

第96回アカデミー賞授賞式でのミスティスラフ・チェルノフのスピーチがすこぶる印象的だ（一部抜粋）。

「この作品はウクライナ映画史上初めてアカデミー賞を受賞しました。

しかし、おそらく私はこの壇上で、この映画が作られなければ良かった、などと言う最初の監督になるだろう。このオスカー像を、ロシアがウクライナを攻撃しない、私たちの街を占領しない姿と交換できれば、と願っています。」

予告編：https://www.youtube.com/watch?v=QJCpbg45iV8&t=1s

2024年4月26日(金)より全国公開中。